高速道路を走る大型トラックの速度標識を見て、乗用車と違う数字が表示されていることに気づいた方もいるのではないでしょうか。大型貨物自動車の最高速度は、2024年4月の法改正によって時速80キロから90キロへと引き上げられました。
この変更は単なる数字の書き換えではなく、物流業界が抱えるドライバー不足や長時間労働といった構造的な課題への対応策のひとつとして位置づけられています。本記事では、大型貨物自動車の最高速度に関する基本的なルールから、引き上げの背景、違反時の罰則、そして安全な運行を支える体制づくりまでを整理していきます。
大型貨物自動車の最高速度は何キロと定められているか
大型貨物自動車の最高速度は、走行する道路の種類によって数値が異なります。高速道路と一般道路、それぞれの基準を押さえたうえで、法定速度と制限速度という似た言葉の違いも確認しておきましょう。
高速道路(高速自動車国道)における最高速度
高速自動車国道の本線車道では、普通乗用車の最高速度が時速100キロと定められている一方、大型貨物自動車や特定中型貨物自動車は長らく時速80キロに制限されてきました。2024年4月1日以降は、この上限が時速90キロへと引き上げられています。ただしけん引自動車(トレーラーなど)は今回の引き上げの対象外で、従来どおり時速80キロが適用される点には注意が必要です。
一般道路における最高速度
一般道路においては、道路標識による指定がない区間の法定最高速度は時速60キロで、これは車両の種類を問わず共通です。大型貨物自動車だからといって一般道で特別に速度が制限されているわけではなく、標識のある区間ではその表示速度に従う必要があります。
法定速度・制限速度・最高速度の違い
法定速度とは道路交通法によって定められた基本の上限値を指し、標識がない場合に適用されます。一方、制限速度は道路標識によって個別に指定された速度で、法定速度より低く設定されていることも珍しくありません。最高速度はこれら両方を包括した「その道路でその車両が出してよい上限」を表す総称として使われる言葉です。三つの用語は似ているため混同されがちですが、区別して理解しておくと標識の意味を正しく読み取れるようになります。
大型貨物自動車の最高速度が90kmに引き上げられた背景

今回の速度引き上げは、警察庁が実施した検証を踏まえて道路交通法施行令が改正されたことによるものです。改正の経緯を知っておくと、なぜこのタイミングで基準が変わったのかが見えてきます。
2024年4月の法改正の内容
警察庁は高速道路上での実際の走行速度や事故発生状況などを検証したうえで、大型貨物自動車と特定中型貨物自動車(車両総重量8トン以上または最大積載量5トン以上の中型貨物自動車)を対象に、高速自動車国道における最高速度を時速80キロから90キロへ引き上げることを決定しました。この改正は2024年4月1日から施行されています。大阪府警本部の案内ページでも、車種別の法定速度が具体的に整理されています(大阪府警本部「高速自動車国道における大型貨物自動車等の法定速度の引き上げについて」)。
物流の2024年問題との関係
背景には、2024年4月からトラックドライバーの時間外労働の上限規制が適用され、輸送能力の低下が懸念されていたいわゆる「物流の2024年問題」があります。最高速度の引き上げによって高速道路での走行時間を短縮できれば、拘束時間の圧縮や輸送効率の改善につながると期待されているのです。もっとも、速度そのものを引き上げただけで人手不足が解消するわけではなく、荷主と運送会社双方の協力による業務効率化が並行して求められている状況だといえます。
引き上げの対象となる車両・対象外の車両
対象となるのは大型貨物自動車と一定の要件を満たす中型貨物自動車で、いわゆる大型トラックのほとんどが該当します。一方でセミトレーラーやフルトレーラーなどのけん引自動車は対象外とされ、従来どおり時速80キロが適用されます。連結車両は制動距離が長くなりやすいことなどが理由として考えられ、車両特性に応じて基準が分けられている形です。
最高速度引き上げによる運送現場への影響
最高速度が10キロ引き上げられたことは、運送会社の現場運営にもさまざまな影響を及ぼしています。メリットと注意すべき点の両方を整理しておきましょう。
輸送時間短縮のメリット
高速道路区間での走行速度が上がることで、長距離輸送にかかる所要時間は理論上短縮されます。たとえば300キロの高速道路区間であれば、時速80キロと90キロでは所要時間に20分程度の差が生じる計算になり、ドライバーの拘束時間短縮や配送スケジュールの余裕確保に寄与すると考えられます。積み替えなしで長距離を走る幹線輸送では、この差が積み重なることで運行効率の改善につながる場面も出てくるでしょう。
安全面で注意すべきポイント
一方で速度が上がれば、制動距離は延び、ひとたび事故が起きた際の被害は大きくなりやすいという側面も見逃せません。特に大型車両は積載物の重量によって制動距離が変化しやすく、天候や路面状況に応じた速度調整がこれまで以上に重要になります。引き上げ後の基準はあくまで上限であり、常に90キロで走行することを推奨するものではない点は、現場のドライバーにも周知しておく必要があるでしょう。
大型貨物自動車の定義とドライバーが知っておくべき基準

最高速度のルールを正しく理解するには、そもそも「大型貨物自動車」がどのような車両を指すのかを押さえておく必要があります。
車両総重量・最大積載量による区分
大型貨物自動車は、次のいずれかに該当する貨物自動車を指します。
- 車両総重量11トン以上
- 最大積載量6.5トン以上
- 乗車定員30人以上
中型貨物自動車や普通貨物自動車との境界はこの数値によって明確に区分されており、ナンバープレートの分類番号からもある程度判別が可能です。
運転に必要な免許の種類
大型貨物自動車を運転するには大型自動車免許が必要で、普通免許や中型免許では運転できません。免許制度は段階的な改正によって見直されており、取得時期によって運転できる車両の範囲が異なる場合があります。自社の車両区分と保有免許が対応しているかは、定期的に確認しておくと安心です。
大型貨物自動車が最高速度を超過した場合の罰則
最高速度の引き上げによって基準は変わりましたが、超過した場合の取り扱いが緩くなったわけではありません。
速度超過の程度別の罰則内容
道路交通法では、超過した速度の幅に応じて反則金や罰則の重さが段階的に定められています。超過幅が大きくなるほど反則金の金額が上がり、一定以上の超過では反則金の対象を超えて刑事罰の対象となる場合もあります。大型貨物自動車は積載物や車両重量の関係で重大事故につながりやすく、速度超過に対する取り締まりは一般車両と同様、あるいはそれ以上に厳格に行われる傾向があるようです。
行政処分(違反点数)
速度超過は違反点数の対象でもあり、超過幅に応じて累積点数が加算されます。累積点数が一定基準に達すると免許停止や免許取消といった行政処分の対象になるため、事業用車両を運転するドライバーにとっては生活や仕事に直結するリスクといえるでしょう。運送会社としても、ドライバーの点数管理を含めた運行管理体制を整えておくことが求められます。
大型貨物自動車の安全走行のために運送会社が取り組むべきこと

最高速度の基準が変わった今こそ、現場任せにせず組織として安全運行を支える仕組みを見直すタイミングだといえます。
運行管理と速度モニタリングの徹底
デジタルタコグラフやGPSを活用した運行管理システムを導入すれば、実際の走行速度や急加速・急減速の傾向を客観的なデータとして把握できます。速度超過が常態化していないかを定期的に確認し、必要に応じてドライバーへフィードバックする仕組みを設けておくと、事故防止と法令順守の両方に役立つでしょう。
ドライバー教育と車両点検の習慣化
新しい速度基準についてドライバー全員が正しく理解しているかは、日々の点呼や教育の場で確認しておきたいところです。あわせて、制動距離に直結するブレーキやタイヤの状態を定期点検で確認する習慣も欠かせません。速度そのものだけでなく、車両の状態管理まで含めて安全運行の土台を整えることが、結果的に事故やクレームの削減につながっていきます。
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