物流業界では人手不足や環境対応の要請を背景に、輸送の仕組みそのものを見直す動きが進んでいます。その中核にあるのが「物流MaaS」という考え方です。言葉だけを聞くと専門的で難しそうに感じられますが、実際には経済産業省や国土交通省が旗振り役となり、荷主・運送会社・行政の三者が連携して進めている具体的な取り組みを指しています。
本記事では物流MaaSの定義から国が示す施策の中身、現場で導入を検討する際に押さえておきたい視点までを整理します。運送会社・荷主のどちらの立場で読んでも、自社の輸送のあり方を見直すヒントになれば幸いです。
物流MaaSとは何か基本の定義を押さえる

物流MaaSという言葉は、もともと交通分野で使われてきたMaaSという概念を貨物輸送に応用したものです。まずはMaaSそのものの意味を確認したうえで、物流分野での使われ方を整理していきます。
MaaSという言葉が本来指す仕組み
MaaS(Mobility as a Service)とは、鉄道・バス・タクシーなど複数の交通手段を一つのサービスとしてつなぎ、検索・予約・決済までを一括で行える仕組みを指す概念です。もともとはフィンランドで生まれた考え方で、都市部の移動を単一のアプリで完結させる取り組みとして世界的に広がりました。
日本でも国土交通省が「日本版MaaS」を掲げ、地域交通の再編や観光との連携を進めています。移動そのものをデータでつなぎ直すという発想が、後述する物流分野にも応用されることになりました。
物流分野における物流MaaSの意味
物流MaaSは、このMaaSの発想を貨物輸送に応用したものです。トラック・鉄道・船舶といった輸送手段や、倉庫・荷役設備などの物流インフラをデータでつなぎ、荷主・運送会社・ドライバーがそれぞれ持つ情報を共有しながら輸送全体を最適化する取り組みを指します。
経済産業省は物流MaaSを、輸送・荷役・保管等の物流機能とAI・IoTなどのデジタル技術を掛け合わせ、物流を効率化・高度化する取組と位置づけています。標準APIガイドラインの策定や共同輸送の手引書公開などを通じて普及を後押ししている点も特徴です。詳しい取組内容は経済産業省「物流MaaSの推進」のページで公開されています。
物流MaaSが注目される社会的背景
物流MaaSがこれほど注目されるのは、物流業界が抱える課題が待ったなしの状況にあるためです。ここでは代表的な二つの背景を確認します。
ドライバー不足と多重下請け構造
運送業界では従事者の高齢化が進み、担い手不足が年々深刻になっています。加えて、荷主から実際に荷物を運ぶドライバーまでの間に二次・三次、時には五次・六次という多重下請け構造が存在するケースも珍しくありません。
中間に事業者が入るほど運賃の一部がマージンとして差し引かれ、実際に荷物を運ぶ運送会社やドライバーの手元に残る収益は圧迫されがちです。この構造を是正し、荷主と運送会社が直接つながる仕組みを整えることは、物流MaaSが目指す方向性と重なる部分と言えます。
小口多頻度化と環境負荷の増大
EC市場の拡大により、一件あたりの荷物は小口化し、配送の頻度は増加しました。結果としてトラックの積載率は下がりやすく、同じ輸送量を運ぶために走行台数が増える非効率が各地で生じています。
走行台数の増加はそのままCO2排出量の増加にもつながるため、脱炭素の観点からも輸送の効率化は避けて通れないテーマです。物流MaaSはこうした需給のミスマッチをデータで可視化し、積載率や配車の最適化につなげる狙いを持っています。
物流MaaSが目指す3つの改善領域

経済産業省の資料や物流MaaSに関する解説では、輸送プロセスを「幹線輸送」「結節点」「支線配送」という三つの局面に分け、それぞれで改善余地を探る整理がよく用いられます。三つの局面ごとに具体的なイメージを持つと、物流MaaSが指す範囲が掴みやすくなるでしょう。
| 局面 | 課題の例 | 物流MaaSでの改善アプローチ |
|---|---|---|
| 幹線輸送 | 長距離便の積載率低下・拘束時間の長期化 | 荷主・運送会社間のデータ連携による共同輸送や中継輸送の推進 |
| 結節点 | トラックの手待ち時間・荷役作業の非効率 | バース予約システムや荷役自動化による待機時間の削減 |
| 支線配送 | 小口多頻度配送によるラストワンマイルの非効率 | 配送ルートの最適化・共同配送拠点の活用 |
幹線輸送における効率化
拠点間を結ぶ幹線輸送では、片荷(復路が空荷になる状態)や積載率の低さが課題になりやすい局面です。物流MaaSの文脈では、荷主同士や運送会社同士がデータを共有し、複数の荷物を組み合わせて運ぶ共同輸送や、途中でドライバーが交代する中継輸送の仕組みづくりが検討されています。
ドライバー一人あたりの拘束時間を抑えながら輸送量を確保する発想であり、長距離輸送を担う事業者ほど恩恵を受けやすい領域と考えられます。
結節点における効率化
倉庫や物流センターといった結節点では、トラックの手待ち時間の長さがかねてから問題視されてきました。到着時間をあらかじめ予約するバース予約システムや、荷役作業そのものを自動化する取り組みは、ドライバーの拘束時間短縮に直結します。
標準化されたAPIで荷主・倉庫事業者・運送会社の情報をつなぐことは、この結節点の改善を進めるうえで欠かせない土台になります。
支線配送における効率化
荷主や倉庫から届け先までを結ぶ支線配送は、EC需要の高まりとともに配送件数が増え続けている局面です。配送ルートをデータで最適化したり、複数の事業者が共同で配送拠点を利用したりする取り組みが進められています。
特に地方部では、一台のトラックが複数の荷主の荷物をまとめて運ぶ仕組みが、担い手不足への現実的な対応策として位置づけられています。
経済産業省・国土交通省が主導する具体的な施策

物流MaaSは民間だけの取り組みではなく、経済産業省や国土交通省が音頭を取って産学官連携で進めている点が特徴です。ここでは代表的な二つの施策を取り上げます。
物流MaaS推進検討会と標準APIガイドライン
経済産業省は2020年度以降、「物流MaaS推進検討会」を継続的に開催し、荷主・運送会社・システムベンダーなど多様な関係者を交えて議論を重ねています。検討会の成果として公表された標準APIガイドラインは、これまで事業者ごとにばらばらだった配送データの形式を統一し、異なるシステム間でも情報をやり取りしやすくすることを目的としています。
データの形式が揃うことは地味に見えるかもしれませんが、実は物流MaaS全体の土台を支える取り組みです。
荷主と運送事業者をつなぐ共同輸送の手引き
あわせて公開されている「荷主・運送事業者のマッチングによる共同輸送の手引書」は、これまで個別に契約していた荷主同士が荷物を組み合わせて運ぶための実務上の注意点をまとめたものです。契約形態や責任の所在、運賃の按分方法など、共同輸送を始める際に事業者がつまずきやすいポイントが具体的に整理されています。
制度や技術だけでなく、こうした実務ノウハウの共有も物流MaaS普及の重要な一部だと言えるでしょう。
物流MaaSに取り組むことで企業が得られる変化
物流MaaSへの対応は短期間で劇的な効果を生むものではありませんが、段階的に取り組むことで運送会社・荷主のそれぞれにメリットが期待できます。
- 運送会社側:データに基づく配車で空車回送を減らし、燃料費や人件費といった変動費を抑えやすくなる
- 荷主側:複数の運送会社の情報を横断的に把握できるようになり、繁忙期に運送会社を探し回る負担が軽減される
- 両者共通:CO2排出量の可視化がESGやCSR報告の観点で評価されやすくなり、企業のブランディングにもつながりうる
ただし、こうした変化は仕組みを導入して終わりではありません。日々のデータ運用と関係者間の合意形成があって初めて実感できるものだという点は押さえておく必要があります。
物流MaaSの実現に向けて現場が直面しやすい壁

物流MaaSの必要性は理解されていても、実際に導入しようとすると現場ならではの壁にぶつかることが少なくありません。ここでは代表的な二つの壁を取り上げます。
システム投資とデータ連携のハードル
中小規模の運送会社にとって、配車システムや動態管理システムへの投資は決して小さな負担ではありません。標準APIが整備されつつあるとはいえ、既存の基幹システムを改修する手間や、社内にITに詳しい担当者が少ないという事情も重なり、導入のハードルは依然として高いのが実情です。
すべてを一度に刷新するのではなく、段階を踏んで取り組む方が現実的です。次のような進め方が一つの目安になります。
まずは紙や口頭でやり取りしている配車情報を、表計算ソフトなどで最低限デジタル化するところから始めます。
取引の多い相手先から優先的にデータ連携の対象を広げ、無理のない範囲で運用を試します。
運用が定着した段階で、配車システムや標準APIとの連携範囲を広げ、対応先を増やしていきます。
荷主・運送会社間の合意形成という課題
共同輸送や中継輸送を進めるには、複数の荷主や運送会社が運賃の按分方法や責任範囲について合意する必要があります。長年の商慣習の中で個別契約に慣れている事業者ほど、他社と情報を共有すること自体に心理的なハードルを感じやすい傾向があります。
国が公開する手引書はこうした調整の出発点として役立ちますが、最終的には個々の事業者同士が信頼関係を築きながら条件をすり合わせていく地道な作業が欠かせません。
物流MaaSの動きを踏まえて運送会社・荷主が今できること
物流MaaS自体は国主導の中長期的な取り組みですが、その根底にある「荷主と運送会社が直接つながり、無駄な中間コストを減らす」という発想は、今すぐにでも実践できる部分があります。多重下請け構造から抜け出し、荷主と直接契約を結ぶことは、物流MaaSが目指す効率化の考え方と重なる、現実的な一歩と言えるでしょう。
こうした直接契約の実現を後押しするサービスの一つが、運送会社検索サイト「ハコプロ」です。ハコプロには全国の運送会社約6万件、営業所約8.5万件が登録されており、荷主企業はエリアや車両形状、輸送品目といった条件で運送会社を検索し、気になる会社に直接問い合わせることができます。運送会社側の掲載料・登録料・使用料はすべて無料で、情報更新の回数制限もありません。
ハコプロ独自のドライバー名鑑は、ドライバーの年齢や社歴、運送にかける想いを掲載できる機能で、多重下請けが常態化しがちな業界において「誰が荷物を運ぶのか」を可視化する狙いがあります。実際に、北海道の荷主企業が苫小牧港から農協への肥料輸送を担う運送会社を探し、釧路市の運送会社とのマッチングに至った事例も生まれています。
物流MaaSという大きな流れを遠い政策の話として眺めるだけでなく、自社の取引構造を見直すきっかけとして捉えることが、これからの物流業界を生き抜くうえで欠かせない視点になりそうです。運送会社選びや自社の情報発信の見直しを検討している場合は、ハコプロへの相談から始めてみてはいかがでしょうか。


