政府は、2024年2月13日に物流関連法の改正案を閣議決定し、一定規模以上の荷主(以下 特定荷主)に対して「物流統括管理者」の設置を義務付ける方針を固めました。
同法の施行はまだ先ですが、特定荷主に該当する企業は約3,000社にものぼると見られているため、多くの事業者が今から適切な人材の確保に向けて動き出す必要に迫られます。
そこで本記事では、物流統括管理者の概要や設置背景、主な役割、資格要件・報告義務などについて詳しく解説します。トラックドライバー不足が懸念される「2024年問題」を解決するための政府肝入りの施策のため、荷主企業やトラック事業者、倉庫業者の経営陣の皆様は、ぜひ参考にしてください。
物流統括管理者とは
最初に物流統括管理者についての概要と設置されるに至った背景について解説しましょう。
物流統括管理者とは、特定荷主における、物流の適正化・生産性向上にむけた取組の責任者のことで、目的達成のために取引先や事業者内における経営トップや役員、販売部門や調達部門など関係各署との交渉や調整を行う役割を担います。
ちなみにここでいう「荷主」とは発荷主にあたる「第一種荷主」と着荷主である「第二種荷主」の両方を指します。
2024年2月13日、「流通業務の総合化及び効率化の促進に関する法律及び貨物自動車運送事業法の一部を改正する法律案」が改正され「物資の流通の効率化に関する法律」に一本化される方向で閣議決定された中で、特定荷主に物流統括管理者の設置が義務付けられることになりました。
具体的には、同法の第3章「運転者の運送及び荷役等の効率化」の第3節「荷主に係る措置」の47条で規定されています。

物流統括管理者の設置背景
2024年4月1日から、働き方改革関連法により、トラックドライバーの時間外労働が年間960時間に規制されることを受けて、一部のモノが運べなくなる「2024年問題」が注目されています。
トラックドライバーの労働時間が減ると、物流が停滞するだけでなく、ドライバーの給与は目減りし、トラック事業者の収益も減少、その結果、事業者の倒産やドライバーの大量離職も危惧されています。
こうなると、さらに物流停滞が悪化するため、企業の経済活動や個人の生活にまで深刻なダメージを与えることになりかねません。
加えて運送業界では、仕事を依頼する側の荷主が、受注するトラック事業者より力関係において上位に位置し、トラックドライバーは契約以外の荷役や付帯作業を強いられるという状態が慢性化していました。
さらに荷待ち時間が長時間に及ぶことも付きもので、長ければ1日で10時間以上に及ぶ例もあります。
しかも、これらの契約外の業務や荷待ち時間に対する対価は、ほとんど支払われないというのが慣例化しており、ドライバー業務のブラック化は、極めて深刻と言わざるを得ないのです。
こうした業界事情は、いくらトラック事業者が努力したところで改善されるものではありません。荷主企業が、根本的な考え方を改めて、トラック事業者の痛みを理解し、ドライバーの尊厳を重視する姿勢を行動に示すことでしか解消されないという考えが、最近になって国と業界全体のスタンダードと化してきたのです。
こうした背景をもとに、2022年9月に国土交通省・経済産業省・農林水産省が連携し、有識者、関係団体及び関係省庁からなる「持続可能な物流の実現に向けた検討会」の第1回目を開催。以後、約1年間にわたり11回の検討会を重ねる中で、特定荷主に「物流統括管理者」の設置を義務付け、業界に深く根付いた構造の改革を果敢に断行していく方針が固まったのです。
加えて2023年には、「我が国の物流の革新に関する関係閣僚会議」が始まり、上述のトラック事業者にとって不公平かつ生産性が低い往年の構造の改革を実効性あるものとするため、総理大臣や国務大臣が積極的に参加のうえ具体的な提言や、改革の進捗状況について共有や調査発表がなされています。

物流統括管理者の役割
続いて、物流統括管理者の役割について見ていきましょう。具体的には、以下の3点になります。
- 中長期的な計画の作成と進捗の報告
- 運転者の負荷低減や輸送集中是正に繋がる事業運営
- その他運転者の運送や荷役等の効率化
①中長期的な計画の作成と進捗の報告
物流統括管理者は、「運転者の荷待ち時間と荷役作業の短縮」と「運転者の積載効率の増加(1人あたりの1回の運送ごとの貨物の重量の増加)」を実現するために中長期計画を策定します。発荷主と着荷主で努力義務として規定される内容を着実に計画・実行に移し、その進捗に関する定期報告も義務付けられます。
なお、虚偽の報告をすると最大50万円、物流統括管理者の不選任や勧告・命令への違反があると最大100万円の罰金が課されます。
発荷主(第一種荷主)
貨物の受渡し日時の決定
積載容量以上の台数停車の抑止
荷役の省力化(フォークリフト利用など運転者が荷役する場合に、パレット等の荷役の効率化に資する輸送器具を運転者が利用できる、また発荷主パレットから着荷主パレットへの積み替えを防ぐためにレンタルパレットを利用したり、サイズを標準化したりするといった省力化措置)
着荷主(第二種荷主)
容量以上の台数停車の抑止
貨物の受渡し日時の決定にあたっての協議への協力
検品の省力化(運転者が貨物の量や品質の契約適合を確認する場合に、効率的な実施など省力化措置)により返品に伴う輸送や検品に伴う拘束時間を削減
といった内容を計画に反映させます。
②運転者の負荷低減や輸送集中是正に繋がる事業運営
物流統括管理者は、上記の中長期計画に盛り込む物理的でオペレーショナルな物流に関わる部分の改善計画の実行に加えて、さらに運転者に無理が生じない措置を経営的視点で実施することも求められます。
具体的には、
- 輸送能力に応じた売上数や生産数の調整
- 上記の調整業務にともなう組織変更や労働者数調整といった事業計画の見直し
などが考えられます。
後述するように、物流統括管理者は、社内の役員クラスの人材が想定されているため、上記のような措置の必要性を経営トップや幹部らに直接訴求できる立場にあります。
それくらいの人物でなければ物流統括管理者は名ばかりになってしまうリスクがあり、政府としてはそうした事態を回避するために厳密な資格要件を規定しているのです。
③その他運転者の運送や荷役等の効率化
さらには以下のような措置を確実に実施するべく、物流統括管理者の役割が問われるでしょう。
- 長距離輸送におけるトラック以外の輸送手段へのモーダルシフト
- 他の荷主や物流業者間で連携して、トラックの融通や共同配送を行う
- 高速道路の積極利用とそれを可能にするための予算確保
- 働き方改革、物流改革に前向きな事業者の選定
- 荷役作業時の安全対策と損害賠償責任の明確化物流統括管理者の資格要件と報告義務
物流統括管理者は、「事業運営上の重要な決定に参画する管理的地位にある者」と定義されており、荷主企業における役員クラスが想定されています。選任・解任した場合には、氏名と役職を荷主企業の所管大臣に届け出なければなりません。

物流管理統括者の前提となる特定荷主とは
ここで改めて物流統括管理者を設置しなければならない特定荷主について詳しく解説しましょう。
特定荷主とは、「物資の流通の効率化に関する法律」の第45条において、発荷主(第一種)と着荷主(第二種)のそれぞれに分けて定義されています。
発荷主(第一種)・・・貨物自動車運送事業者と貨物利用運送事業者に運送を行わせた貨物につき、政令で定める方法で算定した年度の貨物の合計重量が、基準重量以上であり、荷待ち時間等の短縮や積載効率の増加にとくに寄与すべき者
着荷主(第二種)・・・運転手から受け取る貨物や運転手に引き渡す貨物につき、政令で定める方法で算定した年度の貨物の合計重量が、基準重量以上であり、荷待ち時間等の短縮や積載効率の増加にとくに寄与すべき者
なお、特定荷主の厳密な認定基準は、2024年の通常国会閉会(6月23日)後に調査を実施して政令により指定される予定です。
定期報告義務
特定荷主は、「運転者の荷待ち時間と荷役作業の短縮」と「運転者の積載効率の増加(1人あたりの1回の運送ごとの貨物の重量の増加)」を実現するために中長期計画を策定し、所管大臣にその進捗状況について定期報告する義務があります。
義務を果たせない場合には勧告・是正
所管大臣が、上記の義務に関する実施状況が著しく不十分と判断した場合は、、十分な実施をを行うように勧告することができます。勧告に従わない場合は、その旨を公表できることになっています。さらに、荷主が正当な理由もなく勧告に従わない場合は、政令で定める審議会等の意見を聞いた上で、勧告に従うように命令することができます。
虚偽の報告をすると最大50万円、物流統括管理者の不選任や勧告・命令への違反があると最大100万円の罰金が課されるので細心の注意が必要です。
加えて、所轄大臣は、特定荷主の指定や指定の取り消しをする目的で、荷主に対して貨物の運送の委託や受け渡しの状況について報告させ、職員に事務所に立ち入って、帳簿、書類その他の物件を検査させることができます。
また、上記の中長期計画の進捗状況の報告義務を実行させる目的で、進捗状況を報告させ、職員に事務所に立ち入って帳簿、書類その他の物件を検査させることも可能です。
まとめ
今後の物流業界や運送業界では、荷主において物流全体やドライバーの業務を経営的視点から改善していく物流管理統括者の役割が間違いなく大きくなってくるでしょう。
設置義務が課される特定荷主の基準が決まるのはまだこれからですが、各荷主の皆様においては、省エネ法やCLOなどの事例を参考に早めの対策を講じていく必要があるでしょう。
※本記事の内容は、2024/2/13に閣議決定された法改正案を基にした解釈・考察です。最新の情報は国土交通省のページをご参照ください。


