「統括運行管理者」という言葉を耳にしたことはあっても、通常の運行管理者とどう違うのか、どんな会社に選任義務があるのか、いまひとつわからないという方は少なくないはずです。
実際、多くの運送会社では運行管理者を1名だけ選任しているケースが大半で、統括運行管理者の制度が自社に関係するかどうかさえ把握できていないこともあります。しかし、車両台数が一定規模を超えると法令上の選任義務が発生し、違反した場合は行政処分の対象になります。
本記事では、統括運行管理者の定義から法定選任基準・仕事内容・なり方まで、運送会社の管理職や経営者が知っておくべき情報を詳しく解説します。

統括運行管理者とは何か
統括運行管理者とは、複数の運行管理者が在籍する営業所において、それら運行管理者全員の業務を統括・管理する責任者のことです。
根拠法令は貨物自動車運送事業法(第18条)および旅客自動車運送事業運輸規則です。同法では、一定台数以上の事業用自動車を配置する営業所においては、複数の運行管理者のなかから1名を「統括」として指名することを義務付けています。
では、なぜ「統括」という役職が必要なのでしょうか。運行管理者が複数いる大規模な営業所では、各担当者がそれぞれ独立した判断で動くと、点呼の実施方針や異常気象時の運行判断などにズレが生じるリスクがあります。指揮命令系統が分散したままでは、事故発生時の初動対応も遅れかねません。統括運行管理者はそうした「組織としての一貫性」を担保するために設けられた制度です。
一般の運行管理者との違い
通常の運行管理者が担うのは、ドライバーへの点呼・健康状態の確認・乗務記録の管理・異常時の指示といった現場レベルの業務です。一方、統括運行管理者はそれらに加えて、運行管理業務全体の監督・方針決定・他の運行管理者への指導・管理体制の整備といった「マネジメント的責任」を負います。
資格要件は同じ「運行管理者資格」ですが、役割の重さは明確に異なります。組織図で言えば、運行管理者が「プレイヤー」だとすると、統括運行管理者は「プレイングマネージャー」に近い立ち位置です。
安全統括管理者との混同に注意
「統括運行管理者」と似た名称として「安全統括管理者」があります。安全統括管理者は、特定の規模以上の運送事業者が選任を義務付けられている、会社全体の輸送安全を統括する最高責任者です(貨物自動車運送事業法第16条)。一般貨物自動車運送事業では200両以上の事業者に選任義務があります。
両者の違いを整理すると以下のとおりです。
| 項目 | 統括運行管理者 | 安全統括管理者 |
|---|---|---|
| 根拠法令 | 貨物自動車運送事業法第18条 | 貨物自動車運送事業法第16条 |
| 管轄範囲 | 営業所単位 | 会社全体 |
| 主な役割 | 運行管理者の統括 | 安全管理規程の策定・PDCA管理 |
| 選任義務の目安 | 車両台数により異なる(後述) | 一般貨物:200両以上など |
名称が似ているため混同されやすいですが、統括運行管理者は「運行管理の現場を束ねる人」、安全統括管理者は「会社の安全方針を決める経営レベルの責任者」と理解しておくと整理しやすいでしょう。

統括運行管理者の選任基準|何台から必要か
統括運行管理者の選任が必要になるのは、1つの営業所に運行管理者が複数名いる場合です。ではそもそも、どのくらいの台数になると運行管理者が複数必要になるのでしょうか。
貨物(トラック)の場合
一般貨物自動車運送事業における運行管理者の選任数は、事業用自動車29台ごとに1名以上が原則です(国土交通省の公示基準による)。ただし、最低でも1名は必要なため、1〜29台の営業所には運行管理者が1名で足ります。
したがって、統括運行管理者の選任が必要になる目安は以下のとおりです。
| 事業用自動車の台数 | 必要な運行管理者数 | 統括運行管理者 |
|---|---|---|
| 1〜29台 | 1名 | 不要 |
| 30〜58台 | 2名以上 | 必要(1名を統括として選任) |
| 59〜87台 | 3名以上 | 必要 |
| 88台以上 | 4名以上 | 必要 |
つまり、30台を超えた時点で統括運行管理者の選任義務が発生すると覚えておくとわかりやすいでしょう。なお、選任された運行管理者のなかから1名を統括として指名するかたちをとるため、統括運行管理者が別途「資格を取り直す」必要はありません。
旅客(バス・タクシー)の場合
乗り合いバスやタクシー(一般乗用旅客自動車運送事業)の場合は、事業用自動車40台ごとに1名以上の運行管理者が必要です。そのため、1営業所の車両が41台以上になると複数の運行管理者が必要となり、統括運行管理者の選任義務が生じます。
貸切バスの場合
一般貸切旅客自動車運送事業(貸切バス)の場合は、事業用自動車30台ごとに1名以上と貨物と同様の基準が適用されます。30台を超えた営業所では統括運行管理者の選任が必要になります。
ポイント:統括運行管理者の選任義務は「営業所単位」です。同じ会社でも、A営業所に運行管理者が1名・B営業所に3名いる場合、B営業所にのみ統括運行管理者を置く必要があります。会社全体の台数ではなく、各営業所の台数で判断することを忘れないでください。

統括運行管理者の主な仕事内容
統括運行管理者の業務は、単に「他の運行管理者の上司」というだけでなく、幅広い責任を伴います。大きく分けると以下の4つに整理できます。
運行管理者の業務監督と指導
最も基本的な役割は、配下の運行管理者が法令に沿った業務を適切に行っているかを監督することです。具体的には、各担当者が実施している点呼の内容・記録の正確性・ドライバーへの指示の適切さを確認し、問題があれば是正指導を行います。
ここで見落とされがちなのが「判断基準の統一」です。運行管理者が複数いると、悪天候時の運行可否判断や、体調不良ドライバーへの対応に個人差が出やすくなります。統括運行管理者の重要な仕事のひとつは、こうした判断基準をマニュアル化・標準化し、営業所全体として一貫した安全管理ができる体制を整えることです。
ドライバーへの安全教育・指導の統括
法令で定められた安全教育(年間を通じた計画的な教育訓練)について、各運行管理者が実施する内容の計画立案・進捗管理も統括運行管理者の職務です。
運転技術の指導だけでなく、過積載の禁止・過労運転の防止・健康管理の重要性についても、ドライバーへ継続的に周知する仕組みを構築することが求められます。大規模営業所では数十名のドライバーが在籍することもあるため、情報が現場まで届く仕組みづくりが重要です。
コンプライアンス体制の整備
改善基準告示(ドライバーの拘束時間・休息時間に関するルール)の遵守状況の確認、運行記録計(タコグラフ)のデータ分析、デジタル点呼の管理など、法令順守に関わる管理業務も統括運行管理者が中心となって推進します。
2024年4月に施行された「物流の2024年問題」(時間外労働の上限規制)以降、ドライバーの労働時間管理に対する監査の目はより厳しくなっています。統括運行管理者が適切なコンプライアンス体制を構築できているかどうかは、営業所全体の法令遵守レベルに直結します。
事故発生時の初動対応と報告
事故や交通違反が発生した際、最初に連絡を受け、会社・行政への報告対応の指揮をとるのも統括運行管理者の役割です。初動の遅れは行政処分の加重につながることもあるため、報告フローの整備・周知が平時から求められます。
また、事故後の再発防止策の立案・実施・効果検証(いわゆるPDCA)も担います。運行管理者に任せきりにするのではなく、統括として全体を俯瞰した改善策を主導する必要があります。

統括運行管理者になる方法と必要な要件
統括運行管理者になるために特別な「統括運行管理者試験」が存在するわけではありません。まず運行管理者資格を取得し、そのうえで事業者(会社)から統括として指名・届出されることで成立します。
前提となる運行管理者資格の取得
運行管理者資格は、公益財団法人運行管理者試験センターが実施する国家試験(年2回)に合格することで取得できます。試験区分は「貨物」と「旅客」の2種類があり、管理する車両の種別に応じた区分の資格が必要です。
受験資格として、以下のいずれかを満たす必要があります。
- 事業用自動車の運行の管理に関する1年以上の実務経験
- 国土交通大臣が認定する基礎講習を修了していること
試験の合格率は例年30〜40%前後で推移しており、決して簡単な試験ではありませんが、市販のテキストや過去問を活用した独学でも合格は十分に可能です。
試験を受けずに資格を得るルート
試験合格以外のルートとして、5年以上の実務経験と5回以上の一般講習受講を組み合わせる方法があります。具体的には、運行の管理に関する実務経験が5年以上あり、かつその間に国土交通大臣が認定する一般講習を5回以上受講した場合、試験を受けずに資格を取得できます。
ただし、この「無試験ルート」はあくまで長年の現場経験を持つ方向けの制度です。ドライバーから運行管理者を目指すキャリアパスでは、現実的には試験合格を目指すケースが大半を占めます。
資格取得後に統括となるまでの流れ
国家試験合格または5年実務経験+5回講習受講により資格を取得します。
事業者が運輸支局に選任届を提出し、運行管理者として正式に業務を開始します。
車両台数が選任基準を超え複数の運行管理者が必要になった段階で、事業者が1名を統括として指名・届出します。この届出が「統括運行管理者の選任」です。
運行管理者は選任後も2年ごとに一般講習(または特別講習)を受講する義務があります。統括運行管理者も同様の義務が課されます。

統括運行管理者を選任しなかった場合の行政処分
選任義務があるにもかかわらず統括運行管理者を置いていない場合、運輸局による監査で発覚すると行政処分の対象となります。
具体的には、「運行管理者の選任義務違反」として車両停止処分(事業用自動車の使用停止)や事業停止処分につながる可能性があります。処分の重さは違反の状況や過去の処分歴によって変わりますが、車両が使えなくなれば売上への直接的な影響は避けられません。
また、近年は国土交通省による監査の頻度・精度が高まっており、特に事故が発生した場合には関連する法令遵守状況が一括して調査されます。「知らなかった」では済まない点を認識しておくことが重要です。
監査対策の観点からも、車両台数が30台に近づいてきた段階で、選任義務が発生するタイミングと届出手続きをあらかじめ確認しておくことをおすすめします。

統括運行管理者の選任届出の手続き
統括運行管理者の選任は、管轄の運輸支局(または運輸監理部)への届出によって完了します。届出に必要な書類は各運輸支局によって若干異なる場合がありますが、一般的には以下の書類が必要です。
- 運行管理者選任(解任)届出書
- 運行管理者資格者証(写し)
- 宣誓書(事業者の印鑑が必要な場合あり)
既存の運行管理者を統括に変更する場合も届出が必要です。選任・解任が生じた際は「速やかに」届出を行うことが義務付けられており、届出遅延自体も違反となりうるため、人事異動や退職が生じた際は優先的に手続きを進めましょう。
組織体制図の整備も忘れずに
届出書類の提出だけでなく、営業所内の運行管理体制を示す組織体制図を作成・掲示することも実務上重要です。監査の際、誰が統括運行管理者で、誰が補助者かを一目で確認できる体制図があると、行政側への説明がスムーズになります。
各都道府県のトラック協会が組織体制図の様式を公開していることがあるため、所属する協会のWebサイトを確認してみてください。

統括運行管理者と運行管理補助者の関係
統括運行管理者を理解するうえで、「運行管理補助者」との関係も整理しておく必要があります。
運行管理補助者とは、運行管理者の業務の一部(主に点呼業務)を補助する役割を担う者のことで、資格者でなくても基礎講習を修了すれば選任できます。夜間・早朝の点呼対応など、運行管理者だけでは物理的に対応しきれない場面を補う制度です。
ただし、補助者はあくまで「補助」であり、運行管理者の指導・監督のもとで業務を行います。補助者が独立して判断・決定することは認められていません。この点で、統括運行管理者・運行管理者・補助者の3層構造が成立している大規模営業所では、各役割の権限と責任の範囲を明確にしておくことが特に重要です。
統括運行管理者:運行管理業務全体の方針決定・監督
運行管理者:日々の点呼・乗務記録管理・ドライバー指導
運行管理補助者:点呼業務等の補助(運行管理者の指示のもとで実施)

統括運行管理者が担う「現場では語られない」本質的な役割
ここまで法令上の定義や選任基準を解説してきましたが、実際の現場では、統括運行管理者には法令が定める以上の機能が期待されています。
大規模営業所では、ドライバーの数が増えると「誰でも知っているはずの基本ルール」が次第に形骸化していく傾向があります。入社時の教育内容が現場で引き継がれなかったり、改正法令の内容がドライバーに浸透しなかったりするケースです。統括運行管理者がこうした「情報の劣化」を防ぐ役割を果たせるかどうかが、組織の安全レベルを左右します。
また、複数の運行管理者が在籍すると、「Aさんは厳しいがBさんは緩い」といった担当者による対応差が生まれやすくなります。ドライバーがその差を利用する形で安全基準をすり抜けようとするケースも現実にはあります。統括がこうした「担当者ムラ」を把握して是正できるかどうかは、組織ガバナンスの観点で非常に重要です。
さらに、2024年以降の「物流の2024年問題」対応において、労働時間の適正管理は各社の経営課題として浮上しています。統括運行管理者が労務管理部門と連携しながら、ドライバーの拘束時間・休息時間のデータを継続的にモニタリングする仕組みを持てるかどうかが、今後の競争力にも影響してくるでしょう。

管理体制の充実が荷主との信頼構築につながる
統括運行管理者の選任は、法令遵守という側面だけでなく、荷主企業からの信頼を得るうえでも重要な要素になっています。
荷主企業が運送会社を選ぶ際、近年は「ホワイト物流への取り組み」「法令遵守の体制」を重視するケースが増えています。統括運行管理者が機能している営業所は、ドライバーの労働環境管理・安全教育・コンプライアンス体制が整っていることの証明になります。これは入札や契約交渉の場面で、実質的な競争優位につながります。
一方で、多重下請け構造の中にいる運送会社は、荷主に直接自社の管理体制や安全への取り組みをアピールする機会がなかなか得られないのが現状です。
そんな課題を持つ運送会社に活用されているのが、運送会社検索サイト「ハコプロ」です。ハコプロでは、自社の安全管理体制・代表者メッセージ・ドライバー情報(ドライバー名鑑)などを無料で掲載でき、荷主企業に直接アピールする場として機能します。「誰が荷物を運ぶのか」を可視化することで、多重下請けでは伝わらなかった会社の信頼性を荷主に届けられます。

統括運行管理者に関するよくある疑問
統括運行管理者は現場の点呼も行う必要があるか
法令上、統括運行管理者は「他の運行管理者の統括」が主たる役割であり、自らが点呼を執行することは必須とはされていません。ただし、実態として統括運行管理者が一運行管理者として点呼を兼務しているケースも多くあります。人員規模や業務量に応じて柔軟に運用されているのが現状です。
ドライバーが運行管理者(統括含む)を兼任できるか
原則として、自らが乗務するドライバーと運行管理者を兼任することはできません。運行管理者は、管理の対象となる車両に乗務することが禁止されています(国土交通省の通達による)。したがって、統括運行管理者が同じ営業所のトラックに乗務ドライバーとして乗ることも認められていません。
営業所間の兼任はできるか
運行管理者(統括を含む)は、原則として1つの営業所に専属であり、複数の営業所を掛け持ちで担当することは認められていません。複数の営業所を持つ事業者は、それぞれの営業所に要件を満たす運行管理者を配置する必要があります。

運送会社の管理体制や直接契約についてはハコプロへ
統括運行管理者の制度は、法令遵守という枠を超えて、運送会社が「信頼できる物流パートナー」として荷主に選ばれるための基盤にもなっています。管理体制が整った運送会社は、それ自体が強力なアピールポイントです。
しかし、せっかく安全管理体制を整えていても、それを荷主に伝える場がなければ意味がありません。多重下請け構造の中では、一次請けや元請けにその情報が吸収され、荷主の目に届かないことがほとんどです。
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