大型トラックのエンジンを語るとき、必ずといっていいほど話題になるのが排気量です。同じ「大型トラック」という区分に属していても、直列6気筒エンジンとV型8気筒・V型10気筒エンジンでは排気量の桁がまったく異なり、初めて数字を目にすると戸惑う方も少なくありません。ここでは、大型トラックの排気量がどの程度の幅に分布しているのか、主要メーカーのエンジンにはどのような傾向があるのか、そして排気量の大きさが実際の走行や維持費にどう関わってくるのかを、業界の一次情報をもとに整理します。あわせて、車両選定の際に排気量という数字をどう読み解けばよいのかについても触れていきます。
大型トラックの排気量はどのくらいの幅があるのか

大型トラックの排気量は、乗用車のように「◯◯cc前後」とひとくくりにできるものではありません。エンジンの気筒配置によって、排気量の帯そのものが大きく変わってくるためです。まずは大型トラックで採用されている主なエンジン形式ごとに、排気量のおおよその目安を確認しておきましょう。
直列6気筒エンジンの排気量帯
国内の大型トラックで最も多く採用されているのが、直列6気筒(インタークーラーターボ付きを含む)ディーゼルエンジンです。排気量はおおむね9,000cc~14,000cc程度の範囲に収まる車両が中心となっています。日常的な幹線輸送や中距離輸送を担う車両の多くがこの帯に含まれ、燃費と出力のバランスを取りやすい形式として、国内メーカー各社の主力ラインナップを長く支えてきました。
V型8気筒・V型10気筒・V型12気筒エンジンの排気量帯
より大きな出力やトルクが求められる牽引車(トラクター)や、超重量物輸送に対応する特装車になると、V型8気筒で15,000cc~22,000cc、V型10気筒・V型12気筒では20,000cc~26,000cc程度まで排気量が拡大するケースがあります。ただし、国内メーカーの現行大型トラックの主力ラインナップはあくまで直列6気筒が中心であり、V型多気筒エンジンは輸入車や国内向けの特殊用途車で見られる傾向が強い点も押さえておきたいところです。
- 直列6気筒:9,000cc~14,000cc程度
- V型8気筒:15,000cc~22,000cc程度
- V型10気筒・V型12気筒:20,000cc~26,000cc程度
主要メーカー別に見る大型トラックエンジンの傾向
排気量の帯を把握したところで、次に気になるのは「実際に各メーカーの大型トラックはどの程度の排気量を採用しているのか」という点でしょう。国内で大型トラックを製造・販売しているのは、いすゞ自動車、日野自動車、三菱ふそうトラック・バス、UDトラックスの4社です。各社ともフラッグシップモデルに大排気量エンジンを搭載していますが、近年は環境規制への対応と燃費改善を両立させる方向でエンジン開発を進めているのが共通した流れといえます。
いすゞ・ギガと日野・プロフィア
いすゞの大型トラック「ギガ」、日野の大型トラック「プロフィア」は、いずれも直列6気筒ディーゼルエンジンをベースに、車両総重量や用途に応じて複数の排気量グレードを用意しているのが特徴です。単車(トラック単体)向けにはやや排気量を抑えたグレードを、けん引車(トラクター)向けにはより大きな出力を発揮するグレードを用意するという住み分けが一般的になっています。
三菱ふそう・スーパーグレートとUDトラックス・クオン
三菱ふそうの大型トラック「スーパーグレート」、UDトラックスの大型トラック「クオン」についても、直列6気筒エンジンを軸としたラインナップが組まれています。三菱ふそうについては、フラッグシップモデルの刷新にあわせてエンジン排気量そのものを見直した経緯があり、この点は次の章で詳しく取り上げます。
排気量が大きいと走行性能や積載性能はどう変わるのか

排気量という数字だけを見ていても、実際の走りのイメージはつかみにくいものです。ここでは、排気量の大きさがトルク・馬力・積載能力といった実用面にどうつながっているのかを整理します。
トルクと発進・登坂性能への影響
排気量が大きいエンジンは、一般に低い回転域から太いトルクを発生させやすいという特性を持ちます。トルクとはエンジンが軸を回転させる力の大きさを表す指標で、車両総重量が十数トンから二十数トンにおよぶ大型トラックでは、発進時や勾配のきつい坂道でのスムーズな加速に直結する要素です。
排気量の大きなエンジンを搭載した車両ほど、満載時でも急な坂道でエンストしにくく、余裕を持った運転がしやすいと感じるドライバーは多いようです。長距離輸送や山間部を走る路線を担当するドライバーであれば、こうしたトルクの余裕は日々の運転負担に直結する部分でしょう。
走行の快適性と積載重量への配慮
排気量に余裕があるエンジンは、高負荷時でも回転数を上げすぎずに走れるため、エンジン音や振動が抑えられ、長距離運転時の疲労軽減にもつながるといわれています。一方で、排気量が大きいエンジン本体は重量もかさむため、車両総重量のうちエンジン自体が占める割合が増え、結果として最大積載量が目減りする可能性も出てきます。
排気量だけを基準に車両を選ぶのではなく、車両重量とのバランス、そして実際に運ぶ荷物の重量とのつり合いまで含めて検討する視点が欠かせません。
三菱ふそうが新型スーパーグレートで排気量を拡大した背景

大型トラックのエンジンは、近年一貫して排気量を抑えつつ出力を確保する「ダウンサイジング」の流れにあるといわれてきました。そうした中で、三菱ふそうが新型スーパーグレートで排気量をあえて拡大したという事例は、業界内でも注目を集めた出来事です。
10.7Lから12.8Lへ、拡大の経緯
三菱ふそうトラック・バスは、2023年10月のジャパンモビリティショーで6年ぶりのフルモデルチェンジとなる新型スーパーグレートを発表し、2024年6月から順次納車を開始しました。新型では、フラッグシップグレードのエンジン排気量を従来の10.7Lから12.8Lへと拡大しています(出典:ドライバーWeb)。エンジンのダウンサイジングが進む業界の潮流の中での拡大方針だったため、なぜこのタイミングで排気量を増やしたのかという点が注目されました。
ダウンサイジングに逆行するようで、実は理にかなっている理由
では、なぜあえて排気量を拡大したのでしょうか。背景には、排気量を大きくすることで低回転域から十分なトルクを確保し、エンジンを高回転まで回さずに走れるようにするという狙いがあります。エンジンを低い回転数で使えれば、燃料消費や排出ガスを抑えながら大きな出力を発揮できる余地が生まれるためです。
三菱ふそうの公式サイトでも、新型スーパーグレートについて「パワフルな走りと経済性を両立した新型エンジンを搭載」と紹介されています(出典:三菱ふそうトラック・バス公式サイト)。排気量の拡大は単純な出力増強ではなく、燃費と環境性能を両立させるための設計判断だったと読み取れます。排気量の数字だけでなく、その数字がどのような走行戦略のもとで選ばれているのかまで見ると、各社の技術的な狙いが見えてくるはずです。
排気量と免許・税金・維持費で誤解しやすいポイント
大型トラックの排気量を調べていると、免許区分や税金と関連づけて考えたくなるかもしれません。ここは誤解が生まれやすい部分なので、事実関係を整理しておきましょう。
免許区分は排気量ではなく車両総重量などで決まる
普通・準中型・中型・大型自動車免許の区分は、車両総重量、最大積載量、乗車定員という基準によって決められており、エンジンの排気量そのものが直接の判定基準になっているわけではありません。大型トラックは車両総重量が大きくなる傾向があるため、結果的に大排気量エンジンを搭載した車両が多くなっているだけで、排気量が大きいほど免許区分が上がるという単純な対応関係があるわけではない点は押さえておきたいところです。
自動車重量税や維持費で意識したいこと
一方で、自動車重量税や自動車税(種別割)は車両総重量や最大積載量に応じて課税されるため、大排気量エンジンを搭載した重量の大きい車両ほど、税負担や燃料費が増える傾向にあるのは事実です。車両選定の際には、排気量そのものよりも、その車両の総重量区分と、実際に走る路線・積載条件でどの程度の燃料コストがかかるかをあわせて検討する視点が、実務上は重要になってきます。
車両情報の見える化が運送会社と荷主の信頼につながる時代へ
ここまで見てきたように、大型トラックの排気量は単なるスペック上の数字ではなく、トルクや燃費、税負担、そして車両選定の考え方そのものに関わる要素です。運送会社にとっては、こうした車両情報を正しく理解し、必要であれば荷主にもわかりやすく伝えられることが、信頼を積み上げる材料の一つになります。
多重下請け構造とドライバー不足という業界の課題
運送業界では、5次請け・6次請けといった多重下請け構造が常態化しており、中間マージンが運送会社の利益を圧迫しているという課題が長く指摘されてきました。加えてドライバー不足も深刻で、今後さらに人材が不足していくとの見方もあります。こうした状況の中で、荷主企業と運送会社が中間業者を介さずに直接つながる仕組みへの関心が高まっています。
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